昭和に科学ブームを巻き起こした「つくば万博」の足あとを探して
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2024.09.25
昭和に科学ブームを巻き起こした「つくば万博」の足あとを探して
1985年に行われた「国際科学技術博覧会」(科学万博-つくば’85。以下、つくば万博)は、日本中にブームを巻き起こした。当時を知る筆者がその足跡をたどる。TX万博記念公園駅前にある岡本太郎作のモニュメント「未来を視る」から始まり、科学万博記念公園、つくばエキスポセンターなど当時の面影を探索しながら『散歩の達人』がレポート! つくばの地は、以前から人が住む場所や環境について研究されてきた場所なのだ。

子どもの頃のキラキラした思い出「つくば万博」

それにしてもあの記念コインは、どこへ行ったのだろうか――。39年前、日本に科学ブームの熱狂を巻き起こした、つくば万博。「人間・居住・環境と科学技術」というテーマのもと、世界48カ国と37もの国際機関が参加し、つくばの空に自由曲線を描く巨大パビリオンが来場者をワクワクさせた。

来場者は約2033万人。リピーターを度外視し、単純計算すると、日本人の6人に1人が来場したことに! 偏光メガネで見ると映像が目の前に浮き上がって見えた「住友館」や、ドームスクリーンに立体映像を投影した「富士通パビリオン」など、人気のパビリオンには長蛇の列ができた。

当時、筆者は名古屋で鼻水たらしていた幼児。子ども向け雑誌などでつくば万博が特集され、「パビリオン」という言葉が初めて頭に刷り込まれた。そのせいか、今も「パビリオン」という言葉を聞くとワクワクする。つくば万博を記念し発行された500円硬貨を大切に保管していた子どもは、自分だけでなく全国にいたと思う。

あの頃の子どもに、なんだか分からない「科学と宇宙」をビジュアルで見せてくれたのが、つくば万博。バブル前夜、明るい未来をギュッと詰め込んでいたのがつくば万博だった。

メインとなった第一会場。約100ヘクタールの敷地に「芙蓉ロボットシアター」(中央奥の円柱を斜めに切ったような建物)など独創的なパビリオンが並んだ。

当時TXはまだ敷設されておらず、常磐線牛久駅〜荒川沖駅間に万博中央駅が新設された(現在のひたち野うしく駅付近)。ここからシャトルバスで会場へ!

岡本太郎作「未来を視る」(島名)

つくば万博の15年前、大阪で開催された「日本万国博覧会」。岡本太郎が手掛けた、巨大モニュメント「太陽の塔」は、大阪万博のシンボルとしてあまりにも有名だ。

実は、つくば万博でも岡本太郎の作品が展示されていたのはご存知だろうか? 会場のDブロック(現在の科学万博記念公園辺り)に制作された「未来を視る」だ。未来を透明の眼で視る3面の顔で構成されており、ダイナミックな自由曲線に岡本太郎らしいパワーを感じる。

万博終了後も科学万博記念公園に設置されていたが、TX開業の2005年に、万博記念公園駅の東口へ移設された。

高さ約11mの「未来を視る」。作品の前には解説プレートも設置されている。

万博開催時、作品本体の周囲に置かれていた青い顔と白い顔の作品も駅前に移設。こちらも岡本太郎作。

万博ロゴのプレートと公式キャラ「コスモ星丸」のプレート(島名)

「未来を視る」を鑑賞後は、科学万博記念公園へ急がずに、東側へほんの少し歩いてみよう。細い遊歩道が現れ、その車止めにはつくば万博のシンボルマークと、公式マスコットキャラクターのコスモ星丸が! 前者は無印良品のアートディレクターも務めたグラフィックデザイナー・田中一光の作。後者は全国の小・中学生から公募され、選ばれたものを原案としている。

三角の頂点は筑波の山々、中央の2つの輪は人間と科学との調和を表している。

つくば万博といえばこれ! UFOっぽさが宇宙をイメージさせつつ、どことなく80年代のファンシー感も。

科学万博記念公園(御幸が丘)

万博記念公園駅からタクシーで向かったのは、科学万博記念公園。白髪交じりの運転手さんに、万博当時のことを覚えていますか、と聞くと――。
「ものすごい人がやってきたから、昼間はパビリオンに入るのもひと苦労。わたしはこの辺が地元だったんで、16時以降の安くなる入場券を買って、何度も遊びに来ましたよ」

公園の北側で降り、運転手さんにお礼を告げる。この公園は、筑波研究学園都市(現在のつくば市御幸が丘)に設けられた万博第一会場の跡地に造られたもの。当時の建造物はほとんど残っていないが、ひときわ目を引くのが高さ10mの科学の門だ。日本政府出展のテーマ館にあったシンボルタワーを4分の1のサイズにし、1988年に建てられた。門の下には、万博の会場マップがあり、現在の公園マップと見比べると面白い。

公園は会場のDブロックに当たり、「エキスポプラザ」「SONYジャンボトロン」以外、建造物らしきものはこのブロックにない。当時から会場内の公園のような位置付けだったのだろう。園内の池「ぽっちゃん湖」は当時の呼び名のままというのも分かる。この会場マップを写真に撮り、園内を散策すれば往時の風景がよりリアルに想像できそうだ。

園の北東側にある科学の門。下げられている銀の玉が、東西南北見る方向によって、それぞれ科学者4人の顔に見える。

どの科学者の顔が見えるかは、門の東西南北の地面に設置されたパネルで分かるようになっている。

南側からぽっちゃん湖と、ぴょんぴょん橋を望む。橋のさらに北側に、スカイライド(ロープウェイ)が走っていた。

西側の芝生広場は、当時、ぽっかりが丘という広場だった。その北側のシンボル広場にはエキスポプラザがあり、開会式が行われた。

サイバーダイン スタジオ(研究学園)

次に向かったのが、研究学園駅の近くにあるショッピングモール「イーアスつくば」。目的は買い物だけではない。ここの2階に最先端のロボットテクノロジーに触れられる「サイバーダイン スタジオ」があるからだ。

「弊社は、着ている人の意思に従った動きをサポートする世界初の装着型サイボーグ・HALを研究開発しています」と広報担当の朝本さん。展示室ではHALを間近に見られるほか、予約をすれば有料の装着体験もできる。試しに、上腕の動きに連動する動作原理体験をさせてもらうと、軽く肘を曲げようとするだけでHALも肘を曲げてくれた!(写真下、2番目) 「皮膚に貼ったセンサーが、装着している人のかすかな生体電位信号を読み取り、連動して動くんです。福祉や医療分野の動作支援でも利用されているんですよ」

最先端のロボットに混じり、展示にはかわいらしいロボットも。これは、つくば万博のパビリオンのひとつ、「芙蓉ロボットシアター」のショーで活躍したロボットたちだ。
「サイバーダインは筑波大学発のベンチャーとして生まれた企業なので、弊社の代表はつくば万博を大切に思っています。これからも、科学技術の町・つくばをアピールしていけたら」と朝本さん。

芙蓉ロボットシアターのロボたち。ピンクでつぶらな目をしているのがチアガール・ロボット、右隣の黄色いのがマルコ君。

写真の動作原理体験は、5人からの団体見学ツアー(1人1400円)で体験できる。

2005年開催の「愛・地球博」で展示されたHALの全身モデルである5号機も展示。

カメラが人の身体の動きを認識し、画面上のキャラクターもその動きに連動するゲームは、子どもたちに大人気。

つくばエキスポセンター(吾妻)

最後に訪ねた「つくばエキスポセンター」があるのは、もともとつくば万博第二会場だった場所。「この建物自体、日本政府が出展した展示館のひとつでした。その後、1986年に科学館としてオープンしたんです」と同館館長の中原徹さん。

万博時に人気だった、プラネタリウムも継承。恒星投影球は最新のものに変わっているが、初代の投影球も1階の「科学万博‐つくば’85メモリアル」コーナーで展示されている(写真上、館長の横)。この万博コーナーには、当時話題を呼んだ鍵盤楽器自動演奏ロボット「ワスボット」から会場を彩ったコンパニオンの衣装、記念バッジや入場券といった約200種に渡る万博関連グッズの展示まであり、あの頃の熱気がジンジンとよみがえる。映像が立体に見える、紙製フレームの3Dメガネが懐かしい!

中原さんいわく「昨年、JAXAの宇宙飛行士候補に選ばれた諏訪まことさんも『小学生のとき、つくば万博に行ったことが、宇宙や科学に興味を持つきっかけとなった』とおっしゃっていた。ここの展示を見たり、科学教室に参加してくれた子どもが、ひとりでも科学の道に興味を持ってくれたらうれしいです」

世界最大級、プラネタリウムの直径25.6mのドームの構造は万博当時のまま。万博時の呼称はコズミックホール。

ワスボットとコスモ星丸のロボット展示。コスモ星丸はほかにも展示されているから探してみて。

万博でコンパニオンが着ていた衣装も展示。写真の衣装のデザインは、コシノジュンコ!

1階のサイエンスミュージアムショップではタンブラー2000円やぬいぐるみ1500円などコスモ星丸グッズも販売。

この記事を書いた人
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鈴木健太(すずきけんた)

『散歩の達人』本誌の酒場企画のほか、アウトドアや旅行記事の撮影・執筆を行う。子育てを機に我孫子での郊外暮らしをスタート。夏休みに息子と「つくばエキスポセンター」に行き、プラネタリウムの映像美に感動!

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