自転車を通して 新しいまちづくりの形に挑む【つく女】
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2023.09.11
自転車を通して 新しいまちづくりの形に挑む【つく女】
フリーマガジン『茨女』編集部が、つくばエリアに移住・UIJターン(大都市圏から地方への移住)した女性「つく女」を取材。移住までのエピソードや仕事や暮らし、地域との関わり方についてお聞きします。今回は、つくば市で自転車店「CycleChic Tsukuba」を営みながら筑波大学の放置自転車アップサイクルプロジェクトに取り組んでいる株式会社スローグライド代表「CycleChic Tsukuba」店長の矢部玲奈さんにお話を伺いました。

 

矢部 玲奈 (やべ れいな)氏
矢部 玲奈 (やべ れいな)氏
矢部 玲奈 (やべ れいな)氏

東京都出身。都内で筑波大学の職員として勤務した後、2022年につくば市へ移住。

父親が営む自転車店の支店「CycleChic Tsukuba」をつくば市にオープンし、自転車販売のほか、筑波大学の放置自転車アップサイクルプロジェクトに取り組む。

地球にも学生にも優しい 自転車を循環させる仕組み

放置自転車のアップサイクルプロジェクトはどのような仕組みで成り立っているのか、伺いました。

アップサイクルプロジェクト」とは、筑波大学内に放置された放置自転車を修理し、定額料金で新入生や留学生に貸し出すサブスクリプションサービスで成り立っています。
卒業時に自転車を返却してもらい、再び修理して次の学生へつなげることで、自転車を循環させて放置されない仕組みを作っています。

このプロジェクトに取り組みはじめたのは、筑波大学の職員をしている時に、学内の放置自転車を目にしたことがきっかけでした。実家が自転車屋を営んでいることもあり、キャンパスの至るところに、数え切れないほどの放置自転車が置いてあることに自然と違和感を感じたのだと思います。


大学構内の放置自転車

筑波大学は東京ドーム55個分の広さがあるため、学内の移動にも自転車が必須なのですが、卒業時に、学生が自分の使っていた自転車を学内に置き去るようになっていました。県外から入学してくる学生が多いため、卒業後に都内への就職や地元に帰る際に自転車が邪魔になってしまうのだと思います。
大学が毎年1000台ほどの自転車を産業廃棄物として処分していることを知り、本格的にアップサイクルに取り組むことに決めました。

自転車は購入時に防犯登録をするため、持ち主に所有権が残り続けることがアップサイクルを行う上での最初の課題でした。放置されていても、勝手に引き取って新たな事業に使うことができないのです。街中で問題となっている放置自転車もこれが課題となっています。

そこで筑波大学では、卒業後一定期間以上自転車を放置した場合、所有権を大学に移す契約を学生と結ぶことにしています。また、合格通知と同時にICタグに個人情報を登録するための申請書を届け、ICタグを自転車に貼ってもらっています。ICタグのない自転車の学内への持ち込みを禁止しており、普及率は大幅に上がってきました。

修理作業は、筑波大学の広大な敷地から放置自転車を集めてくることから始まります。重たい自転車を軽トラに積んでいく地道な体力仕事です。
集めた自転車はタイヤやチューブを取って点検、サビはできる限りピカピカに磨きます。自転車には明かりのつくライトの装着が法律で決まっているので、ライトもひとつずつ点灯の確認をしています。一通りの作業を整備士さん6人と自分でこなして、1日で約10台が完成します。

今は9月末にくる留学生250人の予約分を作業していますが、留学生は短期間滞在の子が多いので買うよりも負担が少ないと喜んでくれています。

試行錯誤しながらのスタートだったので当初はどのくらいのニーズがあるのかわからなかったのですが、今は修理する人手が足りていない状況です。借りたい人がいるのに届けられないのは申し訳ないので、希望者全員に行き届くように整備を進めています。


学内にある放置自転車の修理作業場

まちを盛り上げる 新しい自転車屋さん

2022年、移住と同時にオープンした自転車店「CycleChic Tsukuba」。どんなお店なのかお聞きしました。

大学職員としての業務をこなしながら、アップサイクルの活動を継続することはとても困難だったため、大学職員を退職し、生まれ育った都内の実家を離れ、つくば市へ移住しました。

移住は大きな決断でしたが、プロジェクトを継続するか辞めるかの選択を迫られたとき、この取り組みは全国的にも例がないことだからまずは動いてみようと思いました。私には自転車を見て育ってきた環境もありますし、誰かがやらなければいけないなら私にやらせてほしいと前向きな気持ちで、移住と同時に自転車店「CycleChic Tsukuba」をオープンしました。

アップサイクルされた自転車を手にした方に、気軽にメンテナンスに来てほしいと思っています。メンテナンスすることで長く良い状態で乗れるので、街の自転車屋さんとして皆さんの自転車を整備する役割も果たせるよう励んでいます。


「CycleChic Tsukuba」店舗外観

店舗では「自分の相棒」になるような新車の販売を行っています。パーツをカスタムしたり、お休みの日を一緒に楽しむなど、移動手段だけではない自転車の楽しみ方に出会ってほしいです。

取り扱っているのは、主にクロスバイクとミニベロという小型車です。スピードなどの性能よりも、おしゃれな自転車を自分のペースで楽しんでもらえることを意識して、取扱商品を決めています。

つくば市はサイクリストが多いため、上級者が通うプロショップが多いのですが、ここでは気軽にサイクリングを楽しみたいというお客様に喜んでもらえる自転車を取り揃えています。


「Cycle Chic Tsukuba」店内

母校への誇りとまちへの愛着を育む 自転車に込めたデザイン

自転車を大切にしてもらおうと製作した大学公認自転車のこだわりについてお聞きました。

アップサイクルプロジェクトと同時に、問題の根本である、放置される自転車そのものをなくそうと、大学公認のクロスバイクを作りました。
4年間の大学生活をつくばで過ごすのであれば、自転車に乗って街を楽しんでもらいたいと思い、車体はクロスバイクにしています。移動のためだけの自転車ではなく、街中をスイスイと気持ちよく走ってもらって、愛車と一緒に生活を楽しんでもらいたいです。
なお、この自転車も他の自転車と同様にアップサイクルして、次の人の手へを渡すことができるよう、「卒業などで不要になったら引き取るからお店にもってきてください」と声かけをしながら販売しています。

デザインは、大学の校章である「五三の桐葉型」マークや、スローガン「IMAGINE THE FUTURE.」をアルミフレームに入れました。学生の皆さんは一生懸命勉強して、受験を乗り越えて入学していると思うので、愛校心と自転車への愛着を持って大切に使ってもらいたいです。
校章は入れるか入れないかを選べるようにしているのですが、校章入りで購入してくれる方が多くて嬉しいです。


筑波大学の校章「五三の桐葉型」マークの入ったデザイン自転車

本格的に販売を始めたのは今年の4月ですが、すでに60台以上売れています。
学生さんだけではなく、どなたでもご購入いただけます。OBOGの方はもちろん、この間は筑波大のバスケットボールチームを応援している高校生が「筑波大のチームが好きなので」と、校章入りの自転車を購入してくれました。自転車を通して筑波大コミュニティが広がっている気がして嬉しかったです。

筑波大学公認自転車が買えるのは、今のところCycleChic Tsukubaだけです。
色はアイボリー、グリーン、ライトブルー、オレンジ、カーキ、ネイビーの6色展開。お店で試乗もできるので気軽に見にきて頂きたいです。


「University of Tsukuba」と入った自転車

自転車が盛り上げる 新しいまちづくり

つくばエリアには県外からもサイクリストが遊びに来ます。おすすめのサイクリングコースはありますか?

やはり、筑波山の近くと霞ヶ浦の湖畔を走る「つくば霞ヶ浦りんりんロード」はおすすめです。
広島県と愛媛県をまたぐ「しまなみ海道サイクリングロード」、滋賀県の琵琶湖を一周する「ビワイチ」とともに日本三大サイクリングロードと言われています。りんりんロードは全長約180キロあるのですが、旧筑波鉄道の跡地を改装しているので平らな道が多く、所々に元駅舎を利用した休憩所もあるため初心者の方も気軽に走れます。ペダルをこぐたびに日本百名山の筑波山が違った形に見えるのも魅力です。

筑波連山には斜面をロードバイクで駆け上がる上級者コースもあるため、つくばでのサイクリングは初心者から上級者まで楽しめます。先日も筑波山帰りのサイクリストがお店に立ち寄って感想を報告してくれました。そうやってお店を基点に、サイクリング愛好家の輪が広がって交流してもらえたら嬉しいです。


学生さんと店舗で談話する様子

つくば市では、2022年4月にサイクルコミュニティ推進室という部署が立ち上がりました。

昨年11月には、市主催の自転車フェス「PEDAL DAY GO Mt.TSUKUBA-ペダルでいご〜筑波山-」が開催され、市全体で「自転車のまちつくば」を盛り上げていく流れができています。つくばの魅力を発信するツールとして自転車が大きな役割を果たすと思っています。

豊かな自然とアクセスの良さが調和した ほどよい田舎暮らし

つくば市で初めての一人暮らしをスタートさせた矢部さん。暮らし心地を伺いました。

生まれも育ちも東京なので、地元では感じなかった空の広さや、きれいな夕日に癒やされています。新鮮な地場野菜が気軽に買える場所があるのも嬉しいです。

自然の豊かさはもちろんですが、大きな商業施設もあるので暮らしやすく、初めての一人暮らしにはぴったりでした。自然に囲まれながらちょうど良い田舎暮らしを体感でき、東京へのアクセスも良いので、仕事との両立がしやすい環境だと思います。


接客をする様子

お店を構えていると、地域の人との距離の近さを感じることも多いです。近所の方があいさつに立ち寄ってくれる時や、気にして声をかけてくれる時など、まちの温かさや人とのつながりを感じます。

地域の人に支えてもらっている恩返しではないですが、学生とイベントを開催し、地域と交流できる機会を作っています。
筑波大学の学生と開催した「くるくる桜マルシェ」では、自転車を試乗された方へ茨城産の野菜をお渡ししたり、写真部の作品を展示して、地域の方をお迎えしました。

コロナ禍だったこともあり、近年は大学や地域の人との関わりが希薄になっていたので、お店を基点に交流の場を広げていきたいです。

アットホームな自転車屋さんから つくばの魅力を届ける

筑波大学と連携したアップサイクルの取り組みはこれまで以上に力を入れて続けていきます。
お店も、入りづらい感じではなく、カフェのようにくつろげる空間にしていきたいです。そのための工夫としてお店の天井をちょっと高くしたり、お客さんが腰をかけられる小上がりを作ったりしています。

帰り道の途中でふらっと立ち寄って、気軽に自転車の調子を相談できる、新しい自転車ライフと出会えるお店を作りたいと思っています。

プライベートでも自転車にたくさん乗りたいです。
最近も、往復30キロくらいかけて隣の土浦市まで行きました。お休みの日はりんりんロードも走りたいですし、つくばエリアの気になるお店の開拓もまだできていないので、街中サイクリングも楽しみたいです。
ちなみにお店の近くにあるパン屋の「ル・パングリ・グリ」さんと「中華定食 笑飯店」さんがおすすめです。CycleChic Tsukubaに来るついでにぜひ立ち寄ってみてください。

フリーマガジン「茨女」とは?

フリーマガジン「茨女」は、茨城所縁の20〜30代の女性編集部がつくる“茨城県出身の女性を応援するメディア”です。
「茨女」は、2013年11月1日にFacebookページに記事を掲載したことから始まりました。
「茨女」を通して、茨城県内外で活躍する茨城県出身の女性一人ひとりの人生を応援し、茨城県出身の女性のロールモデルとなるような人物を取り上げていき、マガジンを読んでくれた人に何らかの活力や勇気を与えられるようにとの思いで活動しています。また、茨城県出身の活躍する女性をピックアップし、世界に発信することで都道府県の魅力度ランキング最下位常連だった茨城県のイメージを払拭し、「人」が、「環境」が魅力的という観点から茨城県の良さを広めていきたいと考えています。

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茨女(いばじょ)|茨城県出身の女性を応援するサイト
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http://www.ibajyo.com/
取材をしたひと
取材をしたひと

茨女編集部 代表 川井 真裕美

株式会社MIITO CREATIVE(ミートクリエイティブ)代表取締役社長。グラフィックデザイナー/イラストレーター。フリーマガジン「茨女」代表。「茨城×女性×デザイン」という領域で、茨城県の魅力を発信しながら「よくばりな働き方を叶える!」ことを実践中。

この記事をかいた人
この記事をかいた人

茨女編集部 八子結奈

フリーライターとして活動する傍ら、静峰ふるさと公園(茨城県那珂市)のパークコーディネーターとしてイベント企画を行う。

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