栃木県出身。2016年、大学院進学を機につくば市に移住。博士号を取得後、つくば市内を拠点とする一般企業での勤務を経て、2023年から市内の某研究機関で広報業務に携わる。物理をテーマにしたアクセサリーブランド「粒や」の運営や、サイエンスコミュニケーターとして活躍。
科学の街つくばで科学の魅力を広める
大学や研究機関が集まり科学の街と呼ばれているつくばの研究機関で広報のお仕事をされている青木さん。
どんなお仕事をされているのでしょうか?
研究所の取り組みを広く発信するため、イベント企画や出前授業、記事の執筆やプレスリリースの編集などをしています。
大学院生時代に利用していた研究所に勤務しているので、当時の経験を生かしながら、分かりやすい情報発信を心がけています。研究所の一般公開では、科学の専門家と一般の人々が、カフェなどの比較的小規模な場所で、科学について気軽に語り合う場、サイエンスカフェやツアーなども企画しました。
広報の仕事の傍ら、研究所の内外でサイエンスコミュニケーターとしても活動しています。
また、科学技術の魅力を伝えるため、大学時代の研究内容に関する講演や、子ども向け実験教室を実施しています。
研究は、まだ誰も答えを知らない謎を、試行錯誤しながら解明を目指します。そのプロセスを感じてもらおうと開催している実験教室「やってみる研究室」では、自分で実験のやり方を考えて実行する、という工程を入れています。
サイエンスコミュニケーターというと難しく聞こえますが、大切にしていることは「日常にある“謎”を楽しむこと」です。
子どもは、「なんでだろう」を見つけるのが上手なので、その気持ちを育てるように手を貸すことが重要です。絶対に成功する実験を目指すのではなく、自分で見つけた「なんでだろう」をどうしたら解き明かすことができるのか考える過程を大切にしています。
そのためには試行錯誤が必須で、答えに辿り着くために「試してみたい」「やってみたい」と思う気持ちを尊重するように心がけています。
つくば市は、「石を投げれば博士に当たる」と言われるほど、研究者や博士が多く暮らしているサイエンスの街です。研究所が多くあり、科学イベントも頻繁に開催されているので、私のように科学に魅せられた子どもが学ぶには最適な街だと思います。
博士課程で取り組まれた素粒子の研究についてお聞きしました。
素粒子は、物質を作る一番小さな粒子のことです。高校2年生の時に「神の素粒子」という本を見つけ、軽い気持ちで読み始めたのが素粒子との出会いです。全340ページと他の本より分厚く、装丁の色使いが目立っていたため手に取ったものの内容が難しく、理解するのに苦労しました。物理の先生が素粒子物理学を専門にしていたので、いろいろと教えていただきながら読み切った記憶があります。大学では科学を幅広く学べる学科を選びましたが、やはり物理を学びたいと思い、大学院では素粒子を専攻しました。
大学院では、素粒子実験の分野で、新しく国際協力によって作ろうとしている実験施設「国際リニアコライダー」の設計に携わりました。新しい実験装置を、手探りで開発していきました。将来、自分が設計した装置が組み込まれるかもしれないとワクワクしていました。
現在は、大学院で得た知識と経験を生かして、実験教室のプログラムを作っています。
最近開催した実験教室では、磁石をつけたレールの上で球を転がす「ガウス加速器」という装置を作りました。基本の型を作った後、球をより速く走らせる方法を考えます。ここからが研究です。
実験教室の参加者からは、次々とアイデアが出てきました。磁石を増やしたり、より高いところから球を走らせたり、レールを長くつなげてみたりと自由な発想で実験を楽しんでくれました。最終的に参加者全員のレールをつないで球を走らせるという、思いも寄らない実験が完成したこともありました。
正解にとらわれず、さまざまな手段を試して、疑問を解決に導いたときの達成感を味わってほしいと思います。
初めての一人暮らしを支えてくれた「Tsukuba Place Lab」
大学院への進学をきっかけにつくば市へ移住された青木さん。
当時の街の印象や現在の暮らしについて伺いました。
大学院に進学するため栃木県の実家を出て、つくば市大穂にある総合研究大学院大学の素粒子原子核専攻(当時)に入学しました。大学生時代は栃木県から都内の大学まで新幹線通学をしていたこともあり、これが初めての1人暮らしでした。自宅から歩ける距離にコンビニエンスストアが3軒もあり、「都会だな」と感じました。当時は自転車で移動していたので、生活圏内にスーパー、病院、飲食店と必要なものが全てそろっている環境もありがたかったです。
つくば市に住んで特にお世話になったのが、筑波大学のそばにある“あらゆる挑戦を応援する”コミュニティスペース「Tsukuba Place Lab」です。通っていた大学院は、学生数が一学年10人ほどで、広いキャンパス内では知り合いを作りづらいことが悩みでした。徐々に寂しさを感じるようになり、外の世界で新しい出会いに期待しようとTsukuba Place Labに足を運ぶようになりました。アットホームな空間に魅了され、大学院を修了した今もスタッフとして通っています。
ここは「異なる価値観が出会う、アイデアを共有できる場。人と人とをつなぎ、やりたいことを実現していく場」です。壁一面に取り付けられた大きな本棚が印象的なシェアスペースで、年齢や仕事、肩書を問わずに誰でも利用できます。勉強や読書をする場所としても使えますし、スタッフやその場に居合わせた人との会話も楽しめます。年間約400回ものイベントが行われているので、お休みの日を除いてほぼ毎日、イベントが開催されています。最初はイベント参加者側だった人が、ここでの出会いから企画を思いつき、新しいイベントを作ることもあります。人の挑戦を応援することが当たり前の環境なので、日々この場所ではチャレンジが生まれています。
私がサイエンスコミュニケーターとしての一歩を踏み出したのもこの場所からです。学んだ知識をアウトプットしたいと思っていたときに、背中を押してもらい研究内容の発表会を行いました。この小さな発表会の間口を広げ、誰もが学びや好きなことを語れる朝活イベントも生まれました。他にも、日常の疑問に焦点を当てた実験教室や、コーヒーを飲みながら科学について語らう「Labサイエンスカフェ」など、やってみたいことをTsukuba Place Labで実現してきました。
先日のTsukuba Place Lab開所6周年イベントには、全国から100人以上の人が駆けつけてくれました。ここに集まる人は、趣味や仕事、年齢や性別もバラバラで、「人種のサラダボウル」のような場所です。これからもたくさんの人が交わり、やりたいことを実現する場として愛されてほしいです。
物理の新しい表現に挑み、好きを表現できる場所「粒や」
物理をモチーフにしたアクセサリーブランド「粒や」について伺いました。
サイエンスコミュニケーターの他におこなっている活動は、大学院での知識を活かし院生時代にスタートさせた、物理をモチーフにしたネックレスやイヤリングを展開するアクセサリーブランド「粒や」です。
ハンドメイドの世界には元素記号をかたどった「科学アクセサリー」という分野がありますが、物理をテーマにした作品を当時は見たことがありませんでした。初めは自分が身に着けたいという思いで、手軽なグッズを作っていましたが、予算の都合もあり、一度中断してしまいました。
しばらくして、「Tsukuba Place Lab」が開催する投資家と起業家をつなぐプレゼン大会である「Friday Night Bridge」に参加するチャンスを得て、心に留めていた物理への情熱とブランドの構想を語ると、コンセプトを面白がってくれる方と出会うことができました。そして、製作費の出資をしてもらい、「粒や」の立ち上げと商品を販売する道につながりました。
作品は「ラグランジアン&ハミルトニアン」「uクオーク」などという、素粒子や図示をモチーフにしたデザインで、パーツの組み合わせも物理の法則に倣うように工夫しています。一般的になじみのない形や単語だと思いますが、誰もが手に取れるよう、普段使いできるシンプルでおしゃれなデザインを意識して製作しています。また、作品にはそれぞれ「解説カード」を付けており、カードに記載されたQRコードを読み取ると、リンク先で、アクセサリーのモチーフになった素粒子や図示の解説が、イラストや図が入った分かりやすい詳しい内容を見ることができます。アクセサリーをきっかけに物理の知識を深掘りして楽しんでもらえればと思います。
これまでに製作した商品は10種類ほどで、ECサイトやサイエンス関係のイベント、つくば市の「もっくん珈琲」「つくるひとcafe」で販売しています。今日、身に着けているネックレスは、「ファインマンダイアグラム」という素粒子の反応図がモチーフです。曲線と直線を組み合わせたシンプルなデザインが好評で、これまでに20個ほどがお客様の手に渡りました。これからも「粒や」のアクセサリーを物理の新しい表現方法として広めていきたいです。
つくばでかなえる無限の夢、挑戦を後押しする環境
最後に、お仕事やプライベートでの今後の目標について伺いました。
仕事面でもプライベートでも、実現しようと動き始めたことが次々と形になっている感覚があります。これまで諦めていたことや、想像もしていなかった仕事が実現している中で、今は「やりたいことを全てやりきる」と決めて行動できるようになりました。背中を押してもらえる環境がつくば市にはあり、安心して挑戦の舞台に立てることがエネルギーになっています。
走ることが好きなので、今年11月のつくばマラソンで初めてのフルマラソンに挑戦します。以前は10キロコースを完走したのですが、走ることで頭がクリアになり考え事が進むので、気に入っている趣味です。研究者はランニング好きの人が多く、知り合いの50代の方は100キロコースを走り抜いていました。
普段は研究所の敷地内やつくば市が紹介している市内のランニングコースでトレーニングしています。コンビニエンスストアやトイレの案内もあるのでGoogleマップと連動させると快適に使えます。コースの途中にある観光スポットも楽しめたらと思います。フルマラソンのゴールテープを切って、つくばでまた一つ、目標を達成できるように頑張ります。
フリーマガジン「茨女」とは?
フリーマガジン「茨女」は、茨城所縁の20〜30代の女性編集部がつくる“茨城県出身の女性を応援するメディア”です。
「茨女」は、2013年11月1日にFacebookページに記事を掲載したことから始まりました。
「茨女」を通して、茨城県内外で活躍する茨城県出身の女性一人ひとりの人生を応援し、茨城県出身の女性のロールモデルとなるような人物を取り上げていき、マガジンを読んでくれた人に何らかの活力や勇気を与えられるようにとの思いで活動しています。また、茨城県出身の活躍する女性をピックアップし、世界に発信することで都道府県の魅力度ランキング最下位常連だった茨城県のイメージを払拭し、「人」が、「環境」が魅力的という観点から茨城県の良さを広めていきたいと考えています。
茨城所縁の20〜30代の女性編集部がつくる茨城県出身の女性を応援するメディア
「茨女」を通して、茨城県内外で活躍する茨城県出身の女性一人ひとりの人生を応援し、茨城県出身の女性のロールモデルとなるような人物を取り上げていき、マガジンを読んでくれた人に何らかの活力や勇気を与えられるようにとの思いで活動しています。
フリーペーパー「茨女」バックナンバーはこちらから
- 茨女(いばじょ)|茨城県出身の女性を応援するサイト
- http://www.ibajyo.com/
茨女編集部 代表 川井 真裕美
株式会社MIITO CREATIVE(ミートクリエイティブ)代表取締役社長。グラフィックデザイナー/イラストレーター。フリーマガジン「茨女」代表。「茨城×女性×デザイン」という領域で、茨城県の魅力を発信しながら「よくばりな働き方を叶える!」ことを実践中。
茨女編集部 八子結奈
フリーライターとして活動する傍ら、静峰ふるさと公園(茨城県那珂市)のパークコーディネーターとしてイベント企画を行う。