名産のみかんを使ったご当地ラーメン「つくば<ruby>福来<rt>ふくれ</rt></ruby>まぜそば」ってなんだ…?!
  • つくば特集
2024.05.23
名産のみかんを使ったご当地ラーメン「つくば福来ふくれまぜそば」ってなんだ…?!
TX沿線のつくば市は約200軒もラーメン店があるラーメン激戦区。日々切磋琢磨する市内のラーメン店が、筑波山麓の特産品である「福来みかん」をテーマにご当地ラーメンを作るべく、2015年から試行錯誤を重ね、2024年ついに完成した。それが「つくば福来まぜそば」だ。それぞれの店が独自のスタイルで提供しており、ご当地の味覚を身近に楽しめる住民の方々がうらやましい…。珠玉の「作品」を味わうべく、『散歩の達人』がいざ実食!

店ごとの個性が光る、香り高きつくば福来まぜそばとは

筑波山麓に自生する福来みかんは、北限のみかんとして珍重され、そのルーツはなんと今から2000年もの昔に遡るそう。小粒ながら、気品ある香りが自慢の福来みかんの皮を干して乾燥させた陳皮ちんぴの粉は、七味唐辛子にも用いられるなど、地域の特産として知られている。

一般社団法人つくば観光コンベンション協会が音頭を取って2015年に始まった「つくば福来らーめん紀行」では、福来みかんの陳皮を使ったご当地らーめんの開発を地元各店の協力を得ながら進め、長きにわたる試行錯誤の末、福来みかんの香りを最大限に活かせる汁なしの「つくば福来まぜそば」として結実した。各店が趣向を凝らして創り上げた個性的な作品は、今後もブラッシュアップを重ね、ご当地らーめんとしてさらに高みを目指していくというから、まだまだ楽しみは尽きない。

つくばご当地らーめん「つくば福来まぜそば」誕生!|つくば観光コンベンション協会

麺や 松辰(まつしん)

地域の祭りには率先して顔を出し、まちおこしと聞けば無償で手伝う心意気が信条の店主・大塚剛さん。ご当地らーめんの開発にもひと肌脱ぐこととなったが、福来みかんの香りをいかに生かすか相当苦労したという。「陳皮粉末を麺に練り込んだところみかんの味が強すぎ、次にふりかけたり和えたりしても、なかなか納得いかなかったですね」

店では以前から、豚や鶏のチャーシューを作る際に生じる油を余すことなく活用してきたが、風味と旨みが特徴の動物系2種の油に独自にブレンドした芳醇な醤油を加え、そこに山椒と陳皮粉末をアクセントとして添えた結果、ピリッとした刺激と香りを両立させることに成功した。

食感の異なる豚と鶏のチャーシューがぜいたくにのった「つくば油そば~福来みかん風味~」は、山椒と陳皮粉末の小技により、動物メインのダシならではのコッテリとした旨みが一層際立っている。途中まで食べ終えたところで看板メニュー「濃口醤油中華そば」のスープを加えてみると、さっぱりとした味わいに変わり、1食で2つの味を楽しめた。

数量限定の「つくば油そば~福来みかん風味~」並900円。食事途中で声をかければ、店自慢の熱々スープをもらえる。

つくば市の市街地から西へ向かう県道24号沿いにあり、店内はカウンター席、テーブル席、小上がり席がある。

勢いよく湯気を放つ、出来たてほやほやの豚チャーシュー。豚肉から出た油は、油そばの素材として活用している。

店主の大塚さん(左)と従業員の菊地亮さん。無駄のない動きで次から次へと素早く注文をこなしていく。

店内の一角に掲げられた大塚さん直筆の「当店のモットー」には、ラーメンに対する熱い思いが込められている。

ラーメン ガキ大将(谷田部)

多くの車が行き交う国道354号に面し、安くてボリュームがあると評判のラーメン店。「陳皮特有の苦みやエグみを抑えつつ、いかに香りを生かすか。醤油や味噌などあれこれ試しましたが、最終的には陳皮粉末を塩ダレに浸透させ、背油と混合油、さらにガーリックバターを麺に絡めるスタイルに落ち着きました」と店を切り盛りする福田敏之さん・僚子さん夫妻は「福来まぜ塩」開発の苦労を語る。

テーブルに運ばれてきた「福来まぜ塩」は、キャベツ、ネギ、モヤシなどたっぷりの茹で野菜が目を引く。手前に添えられた濃厚な味わいの九州・大貫豚を使った自家製チャーシューは一枚肉ではなく、まぜたときに麺と絡みやすいよう、あえてほぐしてあるのが心憎い。

いざ卵黄を潰しながら具と麺をかきまぜると、すぐさま福来みかんならではの心地よいかんきつ系の香りが立ち上ってくるのが分かる。シャキシャキとした野菜と極太麺の相性も抜群で、一見濃厚そうに思えたが、意外なほどあっさり食べ終えることができた。

地元農家から直接取り寄せた新鮮野菜とほぐした自家製チャーシューがたっぷりのった「福来まぜ塩」並900円。

塩ダレの高貴な香りやパンチの効いたガーリックバターに負けないよう、もっちり食感の極太麺を使用している。

厨房中央には福来みかん陳皮の香りを浸み込ませた自家製塩ダレをはじめ、独自配合の油や調味料がズラリと並ぶ。

元プロボクサーと異色の経歴をもつ福田敏之さん。店内にはなんと井上尚弥選手のリングシューズも飾られている。

昼どきには連日行列ができる繁盛店で、福田さん夫妻(両端)の気さくで朗らかな人柄も人気に一役買っている。

中華そば JUN-CHAN(竹園)

「まぜそばの開発に当たり、最初は陳皮の粉末を麺に直接かけてみたんですが、すぐに香りが飛んでしまいまして」と苦笑いする店主の増渕潤さん。その後、開発に協力してくれた従業員から「もういいです」と言われるほど試食を繰り返し、麺とタレ、具材のバランスを見極めながらたどり着いたのが「福来台湾まぜそば」だ。

味の基本となる塩ダレは、利尻昆布やカツオの旨みをベースに自家製鶏油(チーユ)や豆板醤を加え、さらに陳皮粉末をつけ込んだ労作で、麺によく絡み、肝心の香りもしっかり残すことができたという。数種類のスパイスで味を調えた特製ミンチや卵黄などのトッピングは、麺と絡めたときのまとまりのよさも計算されている。見た目の華やかさは、日本料理出身という増渕さんの経歴によるものだろう。

筆者は辛味系がさほど得意ではないので、少々気後れしながら口に含んだところ、ほどよい辛さが福来みかんの香りを引き立たせ、意外なほどよく合う。「これならペロリといけちゃいますね」と思わずうなりながら、笑顔で店を後にした。

「福来台湾まぜそば」並930円。残った具材と絡めて味変を楽しめる追い飯と口直し用のつくば鶏のスープも付く。

つくばエクスプレスのつくば駅から徒歩圏内の市街地にあり、ロゴを配した店頭幕が目印だ。駐車場も完備。

テーブル4卓とカウンター4席の店内。女性でも入りやすい造りで、時には女性客だけで満席になることもあるそう。

「福来台湾まぜそば」には、つくば市内の多くの店でも使われる菅野製麺所のストレートな中太麺を使用している。

特製塩ダレを丁寧に麺に絡める増渕さん。「福来台湾まぜそば」の提供は1日10食限定なので来店の際はご注意を。

この記事をかいた人
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横井 広海(よこいひろみ)

書籍編集者。〈大人のための首都圏散策マガジン〉月刊『散歩の達人』誌上で、連載「徒然リトルジャーニー」の取材・文・撮影を担当。

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