「いいマルシェ」のある街に暮らそう。
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2025.10.20
「いいマルシェ」のある街に暮らそう。
茨城県つくばエクスプレス(以下、TX)沿線エリアでは、年間を通してさまざまなマルシェが開催されています。地域の人々による土地に根付いたマルシェが多く、県外から訪れる人はもちろん、地元で暮らす人々の楽しみにもなっているそう。今回はその中から、つくば市の歴史ある古民家で行われる「邑マルシェ」をピックアップ。次回の開催日11月8日を前に、今年6月に開催されたマルシェの様子をレポートします。

「邑マルシェ」は江戸時代後期の古民家が舞台

つくば市栗原に佇む、江戸時代後期建造の農家屋敷「下邑(しもむら)家住宅」。「邑マルシェ」はこの歴史あるお屋敷を舞台に、年に2回開催しています(2025年は6月と11月開催)。

下邑家5代目が建てたという米倉。その内部は前回(2024年10月)の開催時から新たな出店スペースに
下邑家5代目が建てたという米倉。その内部は前回(2024年10月)の開催時から新たな出店スペースに

2017年に「邑マルシェ」を立ち上げたのは、下邑家8代目の晴美さん。江戸後期に建てられてから代々受け継がれ、晴美さん自身も生まれ育ったこの家をどう維持して残していくかを模索していくなか、たどり着いたのが「マルシェを開くこと」でした。

「もともとマルシェが好きで、いろいろめぐっていくうちに我が家でもマルシェができたら楽しいかもと、イメージをどんどん膨らませていきました。それに、こうした日本ならではの古建築がつくばに残っていることはあまり認知されていませんでしたから、マルシェの会場として開放することで、地域の歴史や文化を知ってもらえたらと思ったんです」と晴美さん。

まずは、近隣のマルシェでのスカウトや、知人の紹介で10組ほどの出店者を集めて「邑マルシェ」をスタート。夫・則夫さんの力を借りて夫妻で運営を続けてきました。2022年からは、息子の悠司さんと、娘の瑞季さんが加わり、現在は家族4人で運営しています。

今ではマルシェの中心人物となった瑞季さんによれば、SNSにより力を入れて情報を発信したところ、出店希望者が増え、毎回20組以上が出店。来場者も増加していて客層は幅広くなり、県内外から老若男女が訪れるようになりました。

「邑マルシェ」は江戸時代後期の古民家が舞台01
門の両側に長屋を配した日本の伝統的な長屋門。つくば市内にはこの長屋門が200軒以上現存。下邑家住宅はそのひとつ

前回の「邑マルシェ」をレポートします!

「邑マルシェ」を訪れたのは2025年6月1日。心配していた天気が回復し、初夏らしい爽やかな天候に恵まれた、マルシェ日和の日曜日でした。

風格ある長屋門をくぐって敷地内に入ると、目の前には手入れの行き届いた庭園、右手にはどっしりとした佇まいの米倉、左手には縁側が印象的な母屋。歴史や格式を感じながらもほっとできる、懐かしく穏やかな空間が広がっていました。

「兄と私が運営にかかわるようになってから、ここだけの風景をもっと大切にしていこうと、会場内のレイアウトを見直しました。

初めに取り組んだのが、キッチンカーの配置でした。以前はマルシェの賑わい感が出るようにと、門を入ってすぐの場所をキッチンカーの定位置にしていましたが、庭よりも車のほうが目立っていたんです。そこでキッチンカーの場所を緑に囲まれた屋敷林に移し、庭全体を見てもらえるように変更しました。

父と母が築いてきたことを変えていくのは勇気のいることでしたが、下邑家住宅を知っていただくには、やってよかったと思っています。主役は出店者さんたちですが、建築、庭園、屋敷林なども含めて、この場所に漂う空気感も楽しんでいただけたら」と瑞季さん。

この日の「邑マルシェ」には、バリエーションに富んだ25軒が出店。まず驚いたのが、下邑家住宅の顔ともいえる長屋門も出店スペースになっていたこと。ひょうたんランプとアクセサリーという2つのブースのユニークな組み合わせに心が躍り、門のすぐそばには米粉の焼き菓子のブースも。これから待ち受けていそうなかわいいもの、おいしいものとの出会いに期待が高まります。

前回の「邑マルシェ」をレポートします!01
前回の「邑マルシェ」をレポートします!02
「米粉菓子やそはち」では、店主の夫が育てた農薬・肥料不使用の自然栽培米の米粉と、オーガニック食材を可能な限り使って焼き菓子を手作り

庭を愛でつつ敷地内を進んでいくと、大正期に建てられた米倉へ。軒下には和菓子、はちみつ、木工作家、陶芸作家などのお店。その内部の少し薄暗い空間には、布小物、服飾、アクセサリー、ドライフラワーなどのブースが寄り添うように配され、落ち着いた雰囲気に気持ちが和まされました。

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前回の「邑マルシェ」をレポートします!04
茨城県土浦市の和菓子店「細川風月堂」は「邑マルシェ」の常連組。名物のわらび餅などの商品は昼頃には売り切れる人気ぶり
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刺し子作家「刺し子の櫟(いちい)」は伝統的な模様のほか、果物、魚などオリジナル図柄をあしらったポーチやバッグなどを展開。手頃なヘアゴムも
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自然素材で手作りする石けんやクリームを販売する「つくし石けん」。この日は石けん作りのワークショップも実施

米倉と敷地奥の屋敷林をつなぐスペースには、革小物をはじめとするクラフト系のお店や石けん作りのワークショップを行うブースも。屋敷林には木々に囲まれるようにキッチンカーが並び、購入したフードを食べられるお休み処を設置。豊かな緑に包まれて食事できる、嬉しい配慮です。

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本格的なタイカレーに加え、ガパオライス、魯肉飯などもそろう「カリー屋リリー」のキッチンカー
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スキレットで焼きあげるホットサンドが自慢の「Nyangry Diner.」はキッチンカーで参加

古きよき日本を思わせる母屋には古着物リメイクや帽子作家のブースのほか、リラクゼーション系サロンが出店。和室で体験する癒しの時間は、よりリラックスできるひとときになりそうです。

この会場を歩くと、まるで気ままな散歩をしながらお店めぐりしているような気分が味わえました。そのことを瑞季さんに伝えてみると、動線や出店者と来場者のほどよい距離感を意識して、会場全体を歩いてもらえるような配置を心がけているのだそう。

その言葉通り、店の数も来場者も増えていますが、窮屈さは一切なく、ほどよく賑やかでゆったり。ほかのマルシェでは感じたことがない、ただただぼーっと過ごしたくなる居心地のよさが感じられます。

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総手縫いで仕上げる「mignon(ミニョン)」の革小物はかわいらしいデザインながら機能も重視

「お客さんも出店者の方も『いい時間だった』『時間がゆっくり流れているようだった』などと、ここで感じた時間や空気感についてSNSに投稿してくださる方が多いんです。この空間を丸ごと楽しんでいただきたいという思いが、いろいろな方たちに伝わっていったら、すごく嬉しいですよね」

会場で目についた「修繕費の募金箱」についても瑞季さんに伺ってみました。「我が家の方針として、下邑家住宅はリノベーションしないで、必要な修繕だけをしながら『このままの姿で残していきたい』という思いがあります。米倉は、つくば市内の伝統建築の保全活用に力を注いでいる『NPO法人つくば建築研究会』の協力で床張りを終え、出店スペースとして利用していますが、実はほかに震災や台風などの影響で崩れかけた土蔵がありまして。この修繕費用は2000万円。下邑家住宅のレンタルスペースとしての貸し出し料、マルシェの出店料、募金などは、その土蔵の修繕のために貯めているんです。

古民家は修繕する箇所が多く、金銭面も労力面も大変なことがたくさんあります。きっと私たちと同じ境遇に生まれ育った方々が全国にたくさんいらっしゃると思うので、この活動がひとつのモデルケースになれるよう歩み続けていきたいですね」時代の流れとともにどんどん貴重になっていく古民家や蔵を家族で維持して守り継いでいく。そんな志のもと開かれるマルシェを訪れたら、地域の歴史や文化をより強く感じられて、古きものへの価値観が大きく変わるかもしれません。

取材・文:中村 美枝 撮影:佐野 学

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