つくばの“酒造り”がいまアツい。
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2025.09.22
つくばの“酒造り”がいまアツい。
茨城県つくばエクスプレス沿線エリアで注目したいのが、つくば市内を中心に盛り上がりを見せている酒造り。歴史ある酒蔵に加えて、近年はワイナリーやブルワリーが誕生。地域に根差した酒造りを行うスポットが増えています。今回は、風光明媚な筑波山のふもとで、その地質や湧水を活かして酒造りに励む、3つの施設をご紹介。土地の風土や文化を感じながら、つくばのお酒を満喫する休日を。

つくばの大地が生み出す、天恵のワイン

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醸造所併設のショップには、つくばワイナリーのメイン品種・富士の夢を醸した2023 TSUKUBA ROUGE 3,190円などが並ぶ

2017年に内閣府から構造改革特区「つくばワイン・フルーツ酒特区」の認定を受けたつくば市。小規模でも果実酒製造に参入しやすくなったことから、市内でワイン用ブドウの栽培とワイン醸造が行われるようになり、現在は市内に4つのワイナリーがあります。

なかでもいち早く、ブドウの栽培に取り組み、醸造所を設立したのが、筑波山南麓の北条地区にある「つくばワイナリー」です。

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ワイナリーのマネジメントから農作業までを担う大塚勝さん(左)、栽培・醸造主任の大浦颯人さん(右)

約18ヘクタールに及ぶ広大な敷地のうち、約3ヘクタールをワイナリーとして活用。醸造所を囲むようにブドウ畑が並び、清らかでいて美しい風景が広がっています。

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垣根仕立てのブドウ畑。立ち上げ当時は、ワイン造りとブドウ栽培のエキスパート、山梨県の志村葡萄研究所の志村富男さんの指導を受けました

「つくばワイナリー」の始まりは2012年。山梨から招いた専門家の指導で、日本交配の赤ワイン用『富士の夢』と、白ワイン用『北天の雫』の栽培をスタート。翌年から山梨で委託醸造を開始し、自社栽培のブドウのみで醸すワイン造りを着々と進めてきました。

そして2019年、敷地内につくば初の醸造所を設立。全工程をつくばで行う“つくば産ワイン”が誕生しました。シャルドネ、メルローといったヨーロッパ品種の栽培も始め、現在は約7000本の樹を育て、例年8月中旬頃から9月末頃まで収穫を行っています。

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山ブドウとメルロー種を交配させた国内品種の「富士の夢」

「筑波山周辺の花崗岩質が風化した土壌は、世界のワインの名産地の土質に似ていて、とても水はけがいいんです。筑波山を越えて流れてくる寒気を含んだ“つくばおろし”が吹き、海風も運ばれてくる地域なので、ブドウの栽培に適しています。

ただ、近年は夏の平均気温が上昇。気温が高すぎて熟す前に糖度だけ上がってしまうブドウも出てきました。しかもゲリラ豪雨や台風もある。病気にならないよう日々管理することはもちろん、ブドウの状態や、天候・気温を見極めながら収穫しています」と、栽培と醸造の責任者である大浦颯人さんは話します。

収穫したブドウは順次仕込みを行い、白ワインは発酵+熟成を経て、翌年4~5月頃から、赤ワインは翌年8月頃から店頭に。ちなみに長期熟成を行わない新酒の赤ワイン、ロゼ、赤のスパークリングは毎年11月23日に販売が始まります(2025年は11月22日)。

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仕込みを行うステンレスタンク

「ワインは食事と一緒に楽しむ方が多いと思うので、いろいろな料理に合わせやすくて、飲み飽きない軽やかな口当たりを意識しています。ブドウの品質に合わせて熟成期間を調整したり、同じ品種でもタイミングをずらして収穫したものや異なる品種をブレンドしたり。特に白ワインはワイン用ブドウ特有の酸味を重視。ほどよい酸味は爽やかな後味を生み、香りの余韻を長引かせてくれます」と大浦さん。

醸造所に併設されたショップでは、ワインの販売のほか、テイスティングメニューを用意。ブドウ畑の周囲を歩くこともできるので、散策を兼ねて、お気に入りのワイン探しに訪れてみるのも楽しいです。

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ワインの販売やテイスティングメニューの提供を行うショップ

地域と人・人と人をつなぐビール、最幸の一杯

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筑波山の朝日をイメージして醸造した、つくばサンライズラガー缶550円、ハーフパイント800円

2020年、つくば市内で初めてのクラフトビール醸造所として誕生した「つくばブルワリー」。代表は水戸育ちの延時崇幸さん。20代前半から映像制作の仕事に携わり、26歳で独立。つくばに会社を立ち上げ映像クリエイターとして活動していました。

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2010年につくばに移住した延時崇幸さん

「映像の仕事で国内外のいろいろなところを取材しました。そのなかで、土地に根付き、地域の人々とのつながりを大切にしている、長年愛されている店や企業との出会いがたくさんありましたね。30年半ばを迎えた頃、僕もそういう事業をつくばで実現したいと思うようになったんです。次の世代に残せる企業をやりたいなと」

そう話す延時さんの転機は2019年の初め。つくば市内のワイナリーの手伝いに参加したことでした。

「手伝いを終えて、みんなでお酒を飲んでいるときに、ワインと日本酒はつくば産なのに、ビールは大手企業のもの。もし自分がビールを作ったら、つくば産のお酒がひと通りそろうじゃん!って思って。それにビールは果物、小麦、酒粕、米など地域の素材を原料にできるから、土地の人たちともつながれる。これだ!と思い立ち、すぐに東京のブルワリーで修業を始めました」

そして2020年9月、洞峰公園前に15坪の店内に醸造所とブリューパブを備えた「つくばブルワリー」を開業しました。「おいしいと言ってもらっても、もっとおいしくできるかもしれない。そう思って、同じビールでも100回仕込むまではレシピを固定せず、試行錯誤を繰り返しました。悩みは尽きない日々でしたが、知識を高め、技術を安定させるためのよき経験になったと感じています」

2024年6月、延時さんはさらなるステップアップをめざし、醸造所を筑波山麓に移して規模を拡大します。「筑波山の天然水でビールを造ったら“真のつくばのビール”ができあがるかなという思いがありました。しかも筑波山の水は中硬水でミネラルが豊富。よりすっきりした味わいに仕上がりましたね」

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筑波山麓に位置する醸造所
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筑波山麓の店舗は土曜日・日曜日のみタップビールを提供。洞峰公園前の店舗は曜日にかかわらずタップビールが楽しめます

現在の定番ビールは6種。茨城県の麦芽を使用したラガー、県産小麦・ユメシホウで仕込んだHAZY IPA、つくば名産・福来みかんのフルーツビールのほか、つくばの名所や伝説からインスピレーションを得て造ったビールも。タップビールだけでなく、かねてから計画していた缶ビールの製造にも乗り出しました。

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つくばの名所や伝説にちなんだネーミングのビールも。パッケージは延時さんがディレクションを務め、イラストはアルバイトの筑波大学生が担当

「店でビールを飲んでもらいたいのはもちろんですが、広く流通させたくて缶ビールの生産を始めました。別の土地で僕らのビールを手にしたとき、この街のことを知らない人がつくばってどんなところ?と思ってくれたり、以前つくばに住んでいた人や来たことのある人が、その時のことを思い出してくれたり。そんなビールでもありたいですね」

伝統の酒造りを土台に新しい酒造りに挑戦する酒蔵

伝統の酒造りを土台に新しい酒造りに挑戦する酒蔵01
併設の酒蔵Cafeでは、きき酒セット(3種)660円のほか、甘酒や仕込み水で淹れたコーヒーを用意

筑波山のふもと、周囲に田畑が広がるつくば市沼田の「稲葉酒造」。創業は江戸末期の1867年。現在のつくば市で最も古くから酒造りを行う老舗ですが、伝統を受け継ぎながらも、新たな挑戦に取り組んできました。

「稲葉家はこの地域の地主で、居を構えて16代目。酒造りを初めて6代目となります。当時からこの辺りは田畑が多く、米の生産が盛んで食用以上に収穫があったこと、そして敷地内から筑波山の地質に磨かれた良質な湧き水が出ていたことから、酒造りが始まったと聞いています」と教えてくれたのは、稲葉酒造・代表取締役 会長の稲葉芳貴さん。

戦後、日本酒に醸造しやすい酒造好適米が開発され、全国各地で生産が進んでいくと、希望の産地や品種の酒造好適米を取り寄せることが可能に。稲葉酒造でも兵庫県産の山田錦や富山県産の五百万石などを入手して、日本酒の原料にしていました。

「仕込み水は筑波山の湧水を使い続けてきたものの、筑波山のふもとの酒蔵として、地元産ではない米で作る酒は、本当につくばの地酒と言えるのだろうかということになりまして。

10年ほど前に創業当時に立ち返ってみようと言うことになり、地元の若手の農家さんに酒米の栽培をお願いするようになりました。せっかくならば、この土地の風土や自然を感じられる酒にしたいので、筑波山の湧水が入る田んぼを開拓してもらっています。近年の高温障害、水不足、カメ虫の被害などで思うように収穫量が上がらず、100%賄えるまで至っていませんが、地元産の山田錦のみで仕込んだ『純米大吟醸 すてら』が全国新酒品評会で金賞を受賞できたことは、大きな励みになりました」

伝統の酒造りを土台に新しい酒造りに挑戦する酒蔵02
稲葉酒造の伝統的な「男女川」、6代目が造り出した「すてら」の各種お酒を販売
伝統の酒造りを土台に新しい酒造りに挑戦する酒蔵03
仕込開始日や使用米なども詳しく表示

さらなる取り組みが、2023年に敷地内に開設した「筑波山蒸溜所」です。「稲葉酒造」では昔ながらの「槽搾り(ふなしぼり)」という手法でゆっくり時間をかけて酒を搾ります。「残った酒粕は、まだまだ酒が搾れそうなやわらかさ。甘酒の材料としても人気が高いのですが、この酒粕を蒸留して焼酎を造っています。一般的には80~90℃の高温で蒸留しますが、40℃くらいで蒸留できる機械を使うため、すごくクリアで風味がよくて、日本酒の香りをそのまま引き継げるんですよね」

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敷地内の「筑波山蒸溜所」で本格焼酎の製造も行う

しかも蒸留後の酒粕は我々の酒米を栽培する田んぼの肥料に。無駄を一切出さない、次世代につながる酒造りとなっています。

なお、1999年に家業を継ぎ、当時はまだ全国に数名しかいなかった女性杜氏となった6代目蔵元の稲葉伸子さんは、2025年度から製造を7代目となる稲葉健太郎さんへと引き継ぎ始めました。まだまだ勉強中という健太郎さんですが、今後の新たな挑戦にも期待が高まります。

伝統の酒造りを土台に新しい酒造りに挑戦する酒蔵05
6代目・稲葉伸子さんの夫で代表取締役会長を務める稲葉芳貴さんと、7代目となる稲葉健太郎さん

取材・文:中村 美枝 撮影:佐野 学

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